仮面ライダークロスファイヤー

昭和ライダーの熱き戦い

第1話 仮面ライダー、再び!

温かい日差しを浴びて、数台のバイクが走っていた。やがて一軒の喫茶店の前に止まり、若者たちが楽しそうに中に入って行った。

「マスター、コーヒー!」若者の一人が言った。

「おお、来たな。今、うまいコーヒーを入れてやる。」マスターは笑顔で答えた。

若者たちは席に座り、楽しげに談笑し始めた。その様子をマスターはうれしそうに見つめていた。

「みんな、楽しそうだ。」カウンターに座る常連の男がマスターに話しかけた。

「ああ、あれを見ると心が和む。」

「そうだ。若いころを見るようだ。そんな気分がする。」

2人が話していると横から注意する声がした。

「マスター、ちゃんとしてください。手が動いていませんよ。シゲさんもマスターの邪魔をしないでくださいよ。」若い女性が言った。

「ああ、すまない。真由ちゃん。今、コーヒーを入れているところだからね。」マスターはバツが悪そうに言った。

「それにしても真由ちゃんはしっかりしているなあ。おやっさんに似てきたよ。」シゲさんは言った。

「何、言ってるんですか。そりゃ、孫ですけれど。全然、似てないわ。」真由は怒ったように言った。

「コーヒー、入ったよ。」マスターが言った。真由はお盆にのせて運んで行った。

「マスター。真由ちゃんも大変だ。あの年でこの店を切り盛りしないといけないしね。」シゲさんが言った。

「ああ、おやっさんが亡くなった後、どうしてもこの店をたたむのに反対した。俺も自慢のコーヒーを入れているが、あまり役に立っていないしな。」マスターは言った。

「そんなことはないさ。おやっさんは喜んでいるさ。」シゲさんは片隅に飾られている写真の方を見た。それはおやっさんこと、立花藤兵衛の写真だった。微笑みながらこの喫茶アミーゴを見守っていた。

おやっさん。この店は昔と同じように若者が集まってきます。いつまでも見守ってください。)マスターは写真を見てそう思った。

「最近、誘拐事件がよく起きているなあ。」若者の一人がスマホのネットニュースを見て言った。

「ああ、俺たちと同じくらいの年の人がさらわれている。身代金の要求も何もなく、消息不明になっている。」

「何のためかな?」

「さあ、でも気をつけないと、俺たちもさらわれるかもよ。」

「脅かすなよ。はっはっは。」

やがて夜になり、若者たちの多くは帰っていった。しかし奇妙なことにそれを遠くから見張っている車があった。満月が出ており、いつものように静かな夜を迎えようとしていた。

店の客は一人だけになっていた。彼は必死にパソコンに打ち込んでいた。

「マスター、コーヒーお替り。」

「翔太、今日はがんばるなあ。」マスターがコーヒーを出して言った。

「ええ、大学の研究発表がすぐですから。ツーリングに行っていたら予定が狂っちゃった。」翔太が笑いながら言った。

「まあ、しっかりやれよ。若いうちにしかできないことがあるんだからな。」マスターがグラスをふきながら言った。

「まあ、今日はここまでにしよう。明日、また来るよ。」翔太はコーヒーを飲み干して立ち上がると、すぐに店を出て行った。

「ふふ。待っているよ。」マスターは笑いながら言った。

 

しばらくしてマスターの耳に若者の悲鳴が聞こえた。確かに翔太の声のようだった。マスターは顔色を変え、すぐにエプロンを脱ぎ捨てて、

「ちょっと、出てくる。」と言って店を飛び出していった。

「えっ。マスター!どこ行くの?」真由はびっくりして声をかけたが、マスターは振り返ることもなく走って行った。真由もあわてて外に出た時にはマスターの姿はなかった。

「一体、どうしたのかしら。急に飛び出して行くなんて。」

マスターは声をする方向へ走って行った。そこには一団の男たちがいた。

「何をしている!」マスターが叫んだ。男たちの中に気を失っている翔太の姿があった。

「お前たち、翔太をどうするつもりだ。」マスターが翔太の方に行こうとした。それを男たちは前に立ちふさがった。

「何のつもりだ。お前たちか。若者を誘拐しているのは!ただでは済まさんぞ!」マスターが叫んだ。一団の男の中から、リーダーらしい男が出てきた。目つきの鋭いその男はステッキを片手に、不気味に微笑みながら言った。

「ふふん。我々に歯向かうとはいい度胸だ。お前に恐怖を教えてやる。」リーダーの男は右手を上げて合図した。すると男たちの姿が変わり、黒ずくめの戦闘員の姿になった。そしてリーダーの男も軍服姿になっていた。ステッキを両手に遊ばせながら、

「ふっふ。驚いただろう。お前には死んでもらう。」と言った。

「何者だ!」マスターが叫んだ。

「冥途の土産に教えてやろう。我々はショッカーネクスト、世界を狙う秘密結社だ。私はガザン将軍だ。さあ、やれ!」ガザン将軍は合図をした。戦闘員は一斉にマスターに飛び掛かってきた。

「ふっふっふ。普通の人間ごときが敵うものか。我々はすべて改造人間なのだからな。」ガザン将軍はつぶやいた。しかし向かっていった戦闘員は次々にマスターに倒されていった。ガザン将軍は驚いてその様子を見ていた。

「こいつめ!」ガザン将軍は向かってきたマスターにステッキを振り上げた。マスターはそれを避けたが、次々に繰り出す将軍の攻撃に少しずつ押されていった。そしてあわやステッキが当たる瞬間、後ろに一歩下がってジャンプした。それは人間業と思えない大きなジャンプで、塀の上にマスターは飛び乗っていた。ガザン将軍と戦闘員は上を見上げた。

マスターは塀の上に立ち上がると、

「ライダー、変身!」と掛け声をかけた。腰に変身ベルトが現れて、勢いよくジャンプした。変身ベルトは風を受けて回転し、やがて仮面ライダーに変身した。1回転して地上に降りて、ファイティングポーズをとった。

「か、仮面ライダー!」ガザン将軍は驚いて叫んだ。

「ん?俺を知っているようだな。翔太を返せ!」仮面ライダーは言った。

「やれ!やれ!」ガザン将軍は叫んだ。戦闘員は向かって行くがすぐに倒されていった。その状況に歯がゆそうに見ていたが、次第に不利になっていく状況に、

「引け!」ガザン将軍は叫んだ。戦闘員は離れていき、その一人は翔太を担いだ。

「待て!」仮面ライダーは叫んだ。ガザン将軍は右手で前の地面を指した。すると大きな爆発が起こり、辺りは煙に包まれた。

仮面ライダーは両手を振り回して敵を追ったが、煙が晴れたころには何もいなくなっていた。

「逃げられたか!」仮面ライダーは辺りを見渡しながらつぶやいた。

 

「マスター、最近、店に出てこないの。何をしているのかしら。」喫茶アミーゴで真由がつぶやいた。翔太がいなくなってから、マスターはたまに顔を見せるだけになっていた。シゲさんは心配そうに真由を見ていた。

マスターこと、本郷猛は翔太を探してバイクで走り回っていた。しかしその行方はようとして知れなかった。

「どこに行ってしまったんだ。翔太!」バイクを降りてヘルメットをとった猛は、空に向かってつぶやいた。彼には言い知れない不安が渦巻いていた。

(早く見つけださねば。手遅れになる前に。)

 

翔太は目を覚ました。そこは手術台の上だった。両手、両足を拘束されて身動きができなかった。翔太は必死にもがいていた。

「目覚めたかね。黒須翔太。よくぞ、ショッカーネクストに来てくれた!」気味の悪い声が聞こえてきた。

「誰だ!僕を呼ぶのは?」

「私は首領だ。ショッカーネクストは世界を征服する秘密結社だ。我々は君を必要としている。だから君をここに連れてきた。」

「僕を放せ!」

「いいだろう。我々の仲間になったら放してやる。」

「いやだ。お前たちの仲間なんかになるものか!」

「そうか?それは遅かったな。」首領の声が響くと、周囲の白衣の男たちが翔太の体にかぶせていた布をとった。それを見て翔太は驚愕した。体も手足も人間のものでない、赤い異形のものに変わっていた。あまりのことに声が出せなかった。

「君はすでに改造人間になった。怪人ファイヤーホッパーだ。もし仲間になるというなら放してやろう。だが拒絶すれば、脳改造も行う。そうなれば今までの記憶は失われ、ただショッカーネクストの忠実なしもべとなる。はっはっは。」首領は笑って言った。

翔太はそれを聞いて叫んだ。

「い、嫌だ。やめろ!」

「仲間になるか?」

「それは絶対に嫌だ。誰がお前たちの言うことなんか聞くものか!」翔太は叫んだ。

「そうか。それなら脳改造を行う。それ!」首領の声が合図をすると、白衣の男たちが近づいてきた。翔太は、

「やめろ!来るな!」翔太は手足をばたつかせて暴れたが、拘束されており身動きができなかった。目の前のドリルが回り、頭の方に近づいてきた。翔太は恐怖で目を見開いていた。

その時だった。急にドリルの回転が止まり、照明が消えた。暗闇の中で白衣の男たちが右往左往していた。やがて手術室のドアが開いて、白衣の男たちが出て行った。外では警報音が鳴り響いていた。

「翔太、大丈夫か。」足元で声をした。翔太がその方向を見ると仮面ライダーが顔を覗かしていた。翔太はその声に聞き覚えがあった。

「マ、マスター?」

「そうだ。マスターだ。ここから逃げるぞ。」仮面ライダーは翔太の体がすでに改造されているのを見て、一瞬、動きが止まったようだったが、翔太の手足を拘束しているベルトを壊した。翔太は体に違和感を覚えながらも、なんとか手術台から降りて立ち上がった。翔太の体は見かけ上は普通の姿に変わっていった。

「行くぞ!」仮面ライダーが声をかけて、翔太の体を抱えるように外に出て行った。廊下は警報音が鳴り響いていた。

「逃げるぞ!」戦闘員が2人を見つけた。仮面ライダーは向かってくる戦闘員を倒しながら、出口に急いだ。出口付近には一台の真っ赤なバイクが置かれていた。

「動かせそうだ。これに乗って逃げろ!」仮面ライダーは翔太に言った。

「はい。でもマスターは?」

「俺のことはいい。ここは俺が防ぐからアミーゴに向かうんだ。」仮面ライダーはそう言うと翔太を真っ赤なバイクに乗せた。翔太はバイクをすぐに走らせた。

 

「逃がすな!追え!」戦闘員たちが次々に向かってきた。仮面ライダーは次々に倒していった。すると奥から黒い色をした怪人が現れた。

「ダークスパイダー、行け!」ガザン将軍の声が聞こえた。ダークスパイダーは仮面ライダーに向かってきた。パンチを繰り出してきたが、仮面ライダーはそれを避けて反撃した。パンチを受けてダークスパイダーは後ろに下がったが、口から糸を吐き出した。それは酸の糸だった。仮面ライダーは身をひるがえしてそれを避けた。その糸は岩に当たって煙が出ていた。

(ここでは不利だ。外へ出るぞ。)

仮面ライダーは飛び上がった。そして天井を突き破って外に出た。怪人や戦闘員もその後を追ってきた。そこは開けた場所で、激しい戦闘を繰り返した。

その様子を陰から見ている人物がいた。それはガザン将軍だった。彼は大きな機械をもって仮面ライダーを狙っていた。気付かれないように少しずつ進んできた。

「もう少しだ。・・・よし!」ガザン将軍の持つ機械から光線が放たれた。それは仮面ライダーをとらえた。仮面ライダーは動きが止まり、苦しみ始めた。

「な、何だ!これは!」仮面ライダーは叫んだ。

「改造人間分解光線だ。これでお前は終わりだ。もうすぐお前に体は分解し始める。」ガザン将軍は言った。仮面ライダーはなおも苦しそうだった。

「ふっふっふ。死ね!仮面ライダー。」ガザン将軍が笑いながら言った。その時だった。

「待て!」周囲に大きな声が響いた。ガザン将軍やダークスパイダー、戦闘員たちが周囲を見渡した。すると丘の上にバイクにまたがった1人の改造人間がいた。

「ファイヤーホッパー!それにあのバイクはレッドストーム。いつの間に!」ガザン将軍が叫んだ。それは赤く輝いていた。新しい仮面ライダークロスファイヤーの誕生だった。

クロスファイヤーはレッドストームを走らせてガザン将軍に向かって行った。大きな改造人間分解光線を持っていた将軍はなんとかそれを避けたが、機械ははね飛ばされて地面にたたきつけられて破壊されてしまった。仮面ライダーはようやく自由になり向かってくる戦闘員を倒していった。

ダークスパイダーは酸の糸を吐いて、クロスファイヤーを攻撃した。クロスファイヤーはそれを避けてレッドストームで向かって行った。ダークスパイダーは跳ねられて地面に転がった。

「今だ!」仮面ライダーは飛び上がった。

「ライダーキック!」仮面ライダーのライダーキックがダークスパイダーにさく裂した。ダークスパイダーは吹っ飛ばされたが、まだ何とか立ち上がっていた。

「おのれ!」

後ろからガザン将軍がステッキを振り回して近づいてきていた。

「逃げるぞ!」仮面ライダーはジャンプして新サイクロンにまたがった。2人はショッカーネクストの基地から脱出していった。

2人の姿を追いかけながらガザン将軍は悔しそうに言った。

「逃がしはせぬぞ。きっと捕まえてやる。それができなかったら抹殺だ!」

 

新しい仮面ライダークロスファイヤーは誕生した。しかしガザン将軍をはじめとするショッカーネクストの魔の手は翔太と猛に迫っている。はたして彼らの行く手はどうなるのか。

 

第2話  ダークスパイダーの反撃の糸

2台のバイクが喫茶アミーゴにたどり着いた。バイクを降りた翔太は少しめまいがしてよろめいた。それを猛が受け止めた。

「大丈夫か?しっかりしろ。」

「ええ、めまいがしただけです。」翔太は荒い息をしていた。

猛は翔太の肩をかかえて中に入って行った。そしてソファに座らせた。真由が驚いて近づいてきた。

「2人とも、どうしたの?」

「真由ちゃん、水!」猛が言った。真由が慌ててコップに水を汲んできた。

「翔太、見つかったのね。どこにいたの?」真由が訊いた。

「すまない。真由ちゃん。ちょっとめまいの薬を買ってきてくれないか?翔太はめまいがしているようだ。」猛が言った。真由はコップを置くと慌ててアミーゴから出て行った。それを目で追いながら、

「多分、慣れない体で激しく動いたためだろう。しばらくするとよくなる。」猛は翔太に言った。翔太はうなずいた。少し息が落ち着いてきているようだった。

「さあ、水でも飲め。」猛はコップを差し出した。翔太がコップを握った途端、コップはバリンと粉々に割れた。猛は一瞬、驚いて目を見開いた。

「す、すいません。コップ、割っちゃって。」翔太は慌てて立ち上がった。後始末をしようと水道のそばに行った。

「いや、いいんだ。俺がやるから。」猛がやっと我に返って立ち上がった。翔太はぞうきんを水に濡らそうとして蛇口をひねった。すると蛇口はぐにゃりと曲がってしまった。翔太は驚いて両手を見た。それはいつもと変りない達也の手だった。しかしそのパワーは水道の蛇口をひん曲げるほど強力になっていた。改造人間にされて、もはや普通の人間に戻れなくなったことを翔太は思い出した。その悲しみが翔太に重くのしかかった。

「僕は、僕はどうなってしまったのですか?化け物になってしまった・・・。」翔太は両手をわなわなとふるわせて泣いていた。

猛はその震える手をしっかりと握りしめて言った。

「大丈夫だ。力の調節ができていないだけだ。訓練すれば普通にできる。君はちゃんと普通に暮らせる。心配するな。」猛は翔太の肩をやさしく手を置いた。翔太は泣き止まなかった。猛自身も深い悲しみに襲われ、目から涙がこぼれた。

「大丈夫だ。きっと何とかなる・・・。」猛は達也に自分と同じ苦しみを与えたショッカーネクストに大きな怒りを覚えていた。

 

真由が帰ってきた。

「翔太は?」

「部屋で休んでもらっている。」猛が答えた。

「マスター。一体、翔太はどうしたの?様子が変だし。」

「いや、翔太をつけ狙う奴らがいる。かなり危険だ。だからしばらくここで預かろうと思う。」猛が言った。

「そうね。ここだと人も多いし。ただ・・・」真由は言葉を濁した。

「どうした?」

「何か誰かに見られているようだった。そんな気がする。」

猛は慌てて外に出て辺りを見渡した。しかし外は何の異常もないように思えた。

「気のせいか?」猛はつぶやいて中に入った。その様子を遠くから見ている人影があった。

 

夜になり、それぞれが眠りに入った。翔太はしばらく眠れなかったが、何とか眠ろうと寝返りを打っていた。その窓に急に怪人の影が浮かび上がった。

翔太は驚いて飛び起きた。しかし窓には何も見えなかった。慌てて窓を開けて外を確認したが、人影はなかった。

「夢か・・・」翔太は安心して窓を閉めた。部屋の方に向き直ると、そこには怪人ダークスパイダーが立っていた。

「うわあ!」翔太は悲鳴を上げた。ダークスパイダーは達也に近づくと、両手で首を絞めた。締め上げられて達也は声が出せない状態だった。

「待て!」猛が駆けつけてきた。ダークスパイダーに飛び掛かると、すぐに翔太を放した。今度は猛に首を絞めようとした。猛はそこから脱出して、仮面ライダーに変身した。

ダークスパイダーにパンチで攻撃をかけていくと、ダークスパイダーは窓から外に逃げていった。

「きゃあ!助けてー!」遠くで真由の悲鳴が聞こえた。仮面ライダーは真由の部屋に駆け付けたが、そこには誰もいなかった。真由は戦闘員に担がれて連れ去られてしまったようだった。外に出て辺りを見渡しても真由の姿はもはやなかった。

「しまった。」仮面ライダーは思わず声が出た。

仮面ライダー、娘は預かった。返して欲しければ、またあの山に来い。それも2人で来い。そこでファイヤーホッパーと交換だ。」ガザン将軍の声が聞こえてきた。

仮面ライダーはぐっと拳を握っていた。翔太はそれをじっと見ていた。

 

猛と翔太はバイクでまたショッカーネクストの基地のある山に来た。バイクを降りると、猛が声をかけた。

「体はもう大丈夫か?」

「はい。真由が僕のためにつかまった。何とか助けたい。」翔太は答えた。

「これは罠だ。敵は何をしてくるかわからない。しかし俺は君たち2人を必ず守る。」猛はきっぱりと言った。

しばらく歩くと、縄で縛られた真由がダークスパイダーと多くの戦闘員に囲まれて立っていた。

「今、助けるぞ!」猛が叫んだ。

「真由を返せ!」翔太も叫んだ。さらに前に進もうとすると、ガザン将軍が立ちはだかった。

「交換だ。ファイヤーホッパーはこっちに歩いて来い。こっちに来たら娘は放す。」

「いや、同時に放せ!」猛が言った。

「いいだろう。行くぞ!」真由が縛られたまま歩き出した。翔太も前に進んだ。お互いにすれ違って歩いていき、真由は猛に抱えられた。翔太は戦闘員に両腕をつかまれていた。

猛は真由の縄を解いてやった。

「翔太は?翔太はどうなるの?」真由が言った。

「心配はいらない。必ず取り返す。」猛が言った。

「ふっふっふ。ここから逃げられると思っているのか?やれ!」ガザン将軍が命令した。戦闘員が2人を取り囲んだ。ダークスパイダーが少しずつ近寄ってきた。

「俺のそばを離れるな。」猛はそう言うと、戦闘員に向かって行った。次々に戦闘員を倒していったが、ダークスパイダーが前に立ちはだかった。真由を後ろに隠すと、

「行くぞ!ライダー変身!」猛はジャンプして仮面ライダーに変身した。ダークスパイダーは酸の糸を吐いて攻撃してきた。仮面ライダーはそれをなんとか避けていた。

その間に真由を捕まえようと戦闘員が近づいていった。真由は必死に逃げていた。

「真由、危ない!」翔太は叫んで暴れた。両脇の戦闘員はそれを押さえたが、翔太の力にはね飛ばされてしまった。翔太は急いで真由のそばに駆け寄った。群がる戦闘員を次々にはねのけていった。

「かまわん。やれ!」ガザン将軍が言った。戦闘員たちは翔太に殴りかかってきた。翔太はパンチを受けて倒れそうになるのを必死にこらえた。すると体から熱いものがこみ上げてきた。体が焼けるように熱くなり、炎に包まれているような気さえした。

(あの時と一緒だ。)翔太はショッカーネクストの基地から単身逃げるとき、同じような感覚になったことを思い出した。すると体が自然に動き始めた。

「変身!クロスファイヤー!!」両腕を回して掛け声をかけると、変身ベルトが現れた。

トオッー」ジャンプすると体が炎に包まれて、深紅の仮面ライダークロスファイヤーが出現した。

クロスファイヤーは周囲の戦闘員たちを次々に倒していった。そしてピンチの仮面ライダーのもとに駆け付けた。酸の糸を吐いていたダークスパイダーにパンチやキックで攻撃した。それは炎の力で何倍にも増幅され、怪人は深いダメージを負った。

「おのれ!」ガザン将軍がステッキでクロスファイヤーを攻撃しようと近づいた。そこに仮面ライダーが立ちはだかった。

「俺が相手だ!」

「何を小癪な!」

仮面ライダーとガザン将軍が戦いを始めた。振り回すステッキを避けつつ、パンチを繰り出した。ガザン将軍はそれを受け止めて、さらに仮面ライダーに攻撃をかけていた。

クロスファイヤーはなおもダークスパイダーにパンチを繰り出していた。不利になったダークスパイダーは酸の糸を吐いた。クロスファイヤーは何とか避けたが、次々と繰り出す糸の連続攻撃に何本かが体に命中して煙が出た。

「ううっ。」と唸り声を出して片膝をついた。そのダメージは浅くなかった。

ダークスパイダーは近づくと、クロスファイヤーの首を両手で絞め上げ始めた。何とかそれを外そうとするが、ダークスパイダーの強い力のためになかなかうまくいかなかった。

(な、何とかしないと。)クロスファイヤーは焦っていた。その時、また体に炎が包まれるような感覚に襲われた。すると体は燃えるように熱くなり、ダークスパイダーの両手を焼いていった。

「ううっ。」ダークスパイダーは両手を放した。そこでパンチを腹に叩き込んだ。ダークスパイダーはよろけて後ろに下がった。それでもまた酸の糸を吐いた。クロスファイヤーはそれを避けてジャンプした。

空中で1回転をして体をひねっていった。すると早い回転が体にかかり、やがて炎に包まれた。

クロスファイヤーキック!」掛け声とともに、その炎のスピンはダークスパイダーに向かっていった。ダークスパイダーは逃げることもできず、キックを受け炎に包まれた。そしてクロスファイヤーは地面に着地した。

「うううっ。」炎に包まれたダークスパイダーはうめき声を出して倒れると、大爆発を起こした。

「やったわ!」戦いを心配そうに見ていた真由は喜んで叫んだ。

「おのれ!」ガザン将軍はダークスパイダーが倒されたのを見て叫んだ。そして仮面ライダーから距離をとると、右手を下に向けた。すると爆発がして煙が辺りを包み込んだ。

「待て!ガザン将軍!」仮面ライダーは叫んだが、煙が晴れた時にはもうガザン将軍の姿はなかった。

「どこへ行った!」辺りを見渡したが、もうどこにもいなかった。

「お前たち、ここから生きて帰れるとは思うな。3人ともここを墓場にしてやる。この基地を自爆する。そうすればお前たちも吹っ飛ぶだろう。死ね!」ガザン将軍の声が響き渡った。

「いかん。脱出するぞ。」仮面ライダーが叫んだ。クロスファイヤーは真由をレッドストームに乗せると発進した。その後を仮面ライダーの新サイクロンが走って行った。

山は大爆発が起こった。辺りは巨大な炎で包まれた。その中を2台のバイクが疾走していった。

「しっかりしろ。もう少しだ。」爆発する道を駆け抜け、仮面ライダーが前の2人を励ましていた。クロスファイヤーは強い衝撃で気が遠くなりながらも、バイクを走らせ続けた。

 

気が付くと、翔太はベッドに寝かされていた。あの大爆発の中を突っ切って何とかここまでたどり着いたが、ここで気を失ったらしかった。猛がベッドまで運んでくれたようだった。

「助かった。」翔太はつぶやいた。ベッドから起きて店の方に下りたが、猛の姿はなかった。

「マスター!」そう呼ぶが返事はなかった。やがて真由も起きてきた。

「マスターは?」真由も気を失ってベッドに寝かされていたようだった。

「いないんだ。どこに行ったのだろう。」翔太が答えた。ふと、カウンターを見ると手紙が置かれていた。達也はそれを手に取った。

「翔太、真由へ。今回は2人とも大変、怖い目にあったと思う。世界征服を目指すショッカーネクストは恐ろしい集団だ。今後も君たちに危害を加えてくるだろう。しかしこれは2人だけのことではない。日本中、いや世界中の多くの人が危害を加えられ、恐ろしい目にあっているだろう。また改造人間にされて自由を奪われている人も少なくないだろう。私は仮面ライダーだ。人類の自由と平和のために戦わねばならない。だから私はショッカーネクストと戦う決意をした。各地に出没する奴らの野望をくじき、人々を守らなければならない。

私は行く。だが私がいなくなっても君たちが力を合わせれば、奴らの脅威を跳ね返すことができる。そう信じている。マスターより。」

「マスター、行ってしまったのね。」真由が言った。

「ああ、でもマスターは僕たちに後を頼んだのさ。ショッカーネクストとの戦い、そしてこの喫茶アミーゴも。」翔太は言った。

「そうね。」真由はうなずいた。2人は猛が行ったであろう、遠くの空を見つめていた。

クロスファイヤー仮面ライダーの活躍でダークスパイダーを倒し、ショッカーネクストの基地は自爆して消えた。しかしショッカーネクストの野望ははてしなく続いていく。これからも壮絶な戦いが待っているのに違いない。

第3話 デビルスコーピオンの恐怖の針

1台のバイクが山道を走っていた。その横を黒ずくめの男のバイクが追い抜かしていった。

「俺と勝負するつもりか!」バイクに乗って青年はつぶやくと、その黒ずくめの男のバイクを追っていった。その黒ずくめの男はニヤリと笑うと、さらにスピードを上げていった。その男は青年を挑発しているように見えた。青年も負けじとスピードを上げていった。

「負けるもんか!」

お互いに山道でデッドヒートを繰り広げたが、ついに青年のバイクは追い抜いて引き離し

「へへ、やったぜ!」青年は得意そうにつぶやいたが、急にあわててブレーキをかけた。急に前の道に網が張られていた。

「うわー!」青年は叫び声を上げた。彼は網にとらわれて気を失った。

 

喫茶アミーゴは今日も客はまばらだった。真由はため息をついて、

「今日も暇ね。」と言った。翔太はカップをふきながらうなずいた。彼はあれ以来、ここに居候をしていたので、店を手伝うようになった。

「来たよ!真由ちゃん。」扉を開けて常連のシゲさんが大きな荷物を持って入ってきた。

「どうしたのですか?」翔太が尋ねた。

「マスターの部屋が開いたから、そこに下宿してもらおうと思って。」真由が言った。

「マスターからも言われていてね。自分は不意に旅に出ることがあるから、いないときは借りて使ってくれと。」シゲさんは言った。

「助かります。」真由が言った。

「いや、ここにいたら毎日、マスター直伝の真由ちゃんのコーヒーがいつでも飲めるからね。こっちも助かるよ。」シゲさんが言った。

その時、34人の若者がアミーゴに飛び込むように入ってきた。

「大変だ!翔太!」

「どうしたんだ。あわてて。」翔太が答えた。

「達也が、達也がいなくなった。」若者の一人が言った。

「何だって!達也が!」

「ああ、バイクで山道のツーリングに出かけた。でも帰ってこないんだ。バイク仲間で方々探したが見つからない。ただ達也のバイクのものと思われる部品が山道に落ちていた。」

「そうなんだ。もしかして今はやりの誘拐、誰かに拉致されたのかもしれない。」

翔太はそれを聞いて目を見開いた。そして居ても立っても居られないようにあわててエプロンをとると、

「僕も探しに行く。」と言って行こうとした。

「ちょっと、翔太、どこに行くの!危ないわ!」真由が止めた。

「でも達也は親友なんだ。もしかのことがあったら・・・」翔太が言った。

「いや、翔太君、やめた方がいい。真由ちゃんの言う通り、危険すぎる。」シゲさんも言った。

「でも僕が行くしかないんです!」翔太はそう言うと、アミーゴと飛び出して行った。

 

翔太はバイクに乗って山道に来ていた。バイクの腕試しに、この曲がりくねった道のカーブを攻めるのには最適のようだった。

ふいに翔太の乗るバイクの後ろに、黒ずくめの男のバイクが現れた。その男は翔太を負い抜かして挑発していた。

(このバイク、もしかしたら達也の失踪に関係しているかもしれない。)翔太はそう思って男のバイクを追っていった。すると男のバイクはさらにスピードを上げて行った。やがて大きなカーブがあり、それを抜けるとバイクもその男も消えていた。

翔太はバイクを止めて、辺りを見渡した。すると探していた達也が現れた。

「達也!無事だったんだな。大丈夫だな!」翔太が言った。

「ああ、元気だ。前より強くなった。」達也は微笑みながら答えた。何か意味ありげな言い方に翔太は違和感を覚えた。

「お前、何かされたんじゃないだろうな?」翔太が訊いた。

「ふふ。俺は生まれ変わった。よく見ろ!」達也は一回りした。すると怪人の姿になった。

「お、お前、ショッカーネクストに改造されてしまったのか!」翔太は驚きながらも言った。

「ああ、そうだ。俺はデビルスコーイオン。ショッカーネクストの一員だ。」

「何を言っているんだ。奴らは世界征服を企む悪の秘密結社だ!」

「ふふ。お前は青いな。ショッカーネクストは世界を規律ある社会に変えようとしているだけだ。そのためには俺たちのような改造人間が必要だ。お前も改造されたのだろう。俺と一緒にショッカーネクストのために働かないか?」怪人はやさしい声で翔太に言った。

「断る!ショッカーネクストは人々の自由を脅かし、平和を壊す集団だ。断じて許すことはできない。」

「そうか。どうしてもだめか?」怪人は訊いた。

「ああ、駄目だ。お前こそやめるんだ。」翔太は言った。

「それならお前を抹殺する。ショッカーネクストの敵としてな。」

「やめろ、達也!」翔太は右手を出して制したが、デビルスコーピオンはパンチを放ってきた。翔太は避けたり、手で受けたりしていたが、数発のパンチを体にあたって後ろによろけた。そこにさらにデビルスコーピオンが攻撃をかけようとしていた。

翔太は飛び上がって背後の斜面に立った。

「「変身!クロスファイヤー!」

翔太は飛び上がって変身した。地上に降りたところをデビルスコーピオンが攻撃をかけてきた。しかしクロスファイヤーはパンチとキックで反撃した。

「うぬぬ。」押され気味のデビルスコーピオンは右手に大きな針を出した。それをクロスファイヤーに向けて突いていった。それをクロスファイヤーが避けて、その針は壁を突きさした。すると壁は爆発とともに大きな穴が開いた。クロスファイヤーは驚きながらもファイティングポーズの構えをとった。

「死ね!」デビルスコーピオンがさらに針を突いていった。クロスファイヤーはまた避けると、今度はパンチをデビルスコーピオンに放った。あまりの衝撃にデビルスコーピオンは後ろに下がり、そこにさらにクロスファイヤーはパンチを入れていった。ダメージを負ったデビルスコーピオンにさらにクロスファイヤーは攻撃をかけようとした。すると、

「翔太、やめてくれ。親友だろ。」デビルスコーピオンが右手を上げてクロスファイヤーに言った。翔太は一瞬、攻撃ができなくなった。

その隙にデビルスコーピオンは右手の針を突きだした。それはクロスファイヤーの胸に当たって爆発を起こした。クロスファイヤーは胸を押さえて片膝をついた。クロスファイヤーの攻撃が止まっている間に、ダメージを受けていたデビルスコーピオンは煙にように姿を消した。

「翔太。勝負はお預けだ。しかし次回は必ず、お前を倒す!またここに来い!」達也の声が聞こえてきていた。

 

翔太は何とか山を下りた。そこにはシゲさんと真由が待ち構えていた。フラフラしている翔太をシゲさんが受け止めた。

「翔太、大丈夫?しっかりして!」

「翔太君、しっかりするんだ。ここに座りたまえ。」シゲさんは翔太を座らせた。負傷して憔悴している翔太に、

「一体何があったんだ?」シゲさんが訊いた。

「達也が、達也が怪人に・・・」翔太が言った。

「何!」シゲさんは驚いていた。真由は悲しそうな顔をしていた。

「達也はショッカーネクストの仲間になってしまった。そして仲間にならない僕に襲いかかってきた。僕は戦った。でも親友の達也を倒すことはできない・・・。」翔太は弱々しく言った。

「しっかりするんだ。彼はもうショッカーネクストの一員なんだ。我々の敵になってしまったんだ。もう親友じゃないんだ。」シゲさんが言った。

「でも・・・。」

「君は仮面ライダーになったんだ。人類の自由と平和を守る。ネクストショッカーの野望をくじかねばならない。それが君の使命のはずだ。」シゲさんが言った。

「シゲさん、どうしてそのことを・・・」真由はすべてを知っているシゲさんが不思議に思って尋ねた。

「マスターからすべて聞いた。おやっさん、いや真由ちゃんのおじいさんも同じことを言うはずだ。」シゲさんはさらに言った。

仮面ライダーはマスターだけではない。多くの者が仮面ライダーとなり悪の組織と戦った。それは想像を絶する苦しみが待っている。だが彼らは人類のために戦った。自分の身がどうなろうと。また時には大事なものを失うことさえあった。翔太、君は決断できるか。親友だった男でも倒すことができるか?」シゲさんは翔太をまっすぐに見て言った。翔太はシゲさんの言葉を聞いて、やっと決意することができた。

「シゲさん。僕はやります。それが僕の役目です。」翔太は答えた。

 

数日後、傷の癒えた翔太はまたあの山道に行った。頂上付近でバイクを降りた。そこに達也が現れた。

「よく来た。」達也が不敵な微笑みを浮かべながら言った。

「ショッカーネクストから抜ける気はないのか?」翔太が言った。

「くどいな。おまえこそショッカーネクストの仲間にならないか?」達也が訊いた。翔太はゆっくり首を横に振った。

「そうだろう。俺は昔からお前を超えられなかった。親友だったお前を妬んでいた。しかし今を違う。お前を倒して俺が上であることを証明してやる!」達也は一回転すると、デビルスコーピオンになった。翔太も

「変身!クロスファイヤー!」と変身した。

ビルスコーピオンは右手の針を出して突いてきた。クロスファイヤーはそれを右、左と避けていた。

「逃げるだけでは勝てないぞ!」デビルスコーピオンはさらに針の攻撃を続けてきた。クロスファイヤーは隙を見てパンチを放った。それはデビルスコーピオンの胸に当たって態勢を崩させた。さらに炎のパンチをデビルスコーピオンに叩き込んだ。デビルスコーピオンは大きなダメージを受けて地面に両手をついた。

さらに攻撃を続けようとしたクロスファイヤーに、

「翔太、親友の俺を殺す気か!」と叫んだ。クロスファイヤーはまたしても攻撃の手を止めてしまった。

「今だ!」デビルスコーピオンは右手の針を突きだした。それはクロスファイヤーの胸に突き刺さった。爆発とともにクロスファイヤーは後ろに倒れこんだ。

「ふっふ。相変わらず甘い奴よ。俺が止めを刺してやる!」デビルスコーピオンは立ち上がり、右手の針を振り上げた。そしてクロスファイヤーの顔めがけて針を突いた。あわやという時、何とかそれを両手で受け止めた。しかしデビルスコーピオンはさらに力を入れて、針はクロスファイヤーの顔の前に迫っていた。

「ううむ。」

クロスファイヤーはなんとかこらえて、足でデビルスコーピオンをはねのけた。そして起き上がると、

「ファイヤーパンチ。」を連発した。デビルスコーピオンは後ろによろめいた。クロスファイヤーはジャンプして一回転して、

クロスファイヤーキック!」を放った。激烈なキックを受けてデビルスコーピオンははね飛ばされた。地面に倒れて転がったが、なんとか立ち上がった。

「翔太、俺の負けだ。やはりお前にはかなわなかった。何もかも・・・。」そう言うと再び地面に倒れた。そして大爆発した。

振り返ったクロスファイヤーはその炎に照らされて、悲しそうに立っていた。

 

クロスファイヤーの活躍でデビルスコーピオンは倒された。しかし親友を失った翔太の気持ちは深く沈んでいた。仮面ライダーとしての使命を果たした彼には、あまりにも大きな代償だった。翔太は罪のない若者を改造人間にするショッカーネクストへの怒りをさらに強くした。

 

第14話 強敵!マウントイエティー

若い男女が山道を歩いていた。天気はよく、山から見える景色も素晴らしかった。

「いい所ね。」

「そうだろう。穴場だ。最近、山登りにおすすめの山ということで話題になったんだ。」

「でも、あまり人がいないわね。」

「それがいいんじゃないか。静かで。」

そんな話をしているうちに」、鬱蒼とした林に中に入った。

「ちょっと怖いところね。」林の中は薄暗く、静まり返って不気味な雰囲気があった。

「ああ、でもここを抜ければ頂上だ。素晴らしい光景が広がっているよ。」

その時、鳥が羽ばたく音がした。一同はぎょっとして身を寄せあった。

「フッフッフ。」林の中に声が響き渡った。

「だ、誰だ。」青年が叫んだ。すると怪人が目の前に出現した。

「きゃあー。」「うあー。」叫び声がして、山々をこだました。

 

喫茶アミーゴでシゲさんが新聞に目を通していた。そしてある記事に目を止めた。

「失踪事件か。また大具須山か。知らないところだな。」

「シゲさん。今頃?ネットではもう噂になっているわ。」真由が言った。

「何て?」

神隠しだろうって。あの山には昔から修験者が修行していたそうよ。神聖な山らしいわ。」

「新聞じゃあ、5人目らしいな。」

「ネットじゃあ、10人以上とも言っているわ。」真由が両手の指を出して言った。

その話を翔太と蓮が聞いていた。

「おい、大具須山って聞いたな。」蓮が声を潜めて言った。

「ああ、あの辺は人も住んでいないところだ。もしかしたらネクストの仕業かも。」翔太が言った。

「ちょっと調べてみるか。」蓮は真由が聞いていないことを確認しながら言った。

「ああ、真由に見つからないようにな。明日朝早く出発だ。」翔太が言った。

「ちょっと2人とも、何をこそこそ話しているの!」真由が翔太と蓮の様子に気付いて言った。

「ないもないよ。」2人は同時に言うと、席を離れて出て行った。

「あやしい。」真由はつぶやいた。

 

次の日の朝、翔太と蓮は喫茶アミーゴを密かに抜け出してバイクを走らせた。幸い、真由には気づかれていないようだった。2人はほっとしていた。

(真由がついてきたら、危ないからな。)

しかし前方にバイクが止めっているのに2人は気づいた。そこには真由が腕組みをして立っていた。翔太と蓮はバイクを止めて、お互いに顔を見合わせてバツの悪そうにした。

「やっぱりね。大具須山に行こうとしていたのね。2人だけで。」真由が言った。

「いや、危ないから。真由はアミーゴで待っていた方がいいと思って。」翔太が言った。

「大丈夫よ。これでも立花藤兵衛の孫よ。ショッカーネクストの影があるところには行くわ。2人ともついてきて!」真由はバイクにまたがると走り始めた。

 

やがて大具須山のふもとに着いた。

「ここからは歩きだ。」蓮がリュックサックを背負って歩き始めた。翔太と真由もリュックサックを背負うと後をついて行った。山道には人影はなかった。最初は景色が素晴らしい開けた場所を通っていたが、次第に薄暗い林の中に入って行った。

「何か出そうだわ。」真由が不安そうに言った。

翔太と蓮も不気味な雰囲気を感じていた。すると急に、

「フッフッフ。」笑い声が聞こえてきた。

翔太と蓮は身構えた。すると怪人が目の前に現れた。戦闘員も後ろに控えていた。

「出たな!ショッカーネクストの改造人間!お前が若者をさらっていたんだな。」翔太が言った。

「よくわかったな。俺はマウントイエティー。お前たちも捕まえてやる。」

「何を!お前たちの企てをつぶしてやる。来い!」蓮が叫んだ。マウントイエティーが合図をすると、戦闘員が3人を囲んだ。そして殴りかかってきた。翔太と蓮は向かってくる戦闘員を倒していった。

「小癪な!」マウントイエティーが翔太に向かってきた。翔太がパンチを放つが、怪人は平気な顔をして翔太にパンチを浴びせてきた。後ろから蓮がキックをしたがびくともしなかった。

「そんなものが効くか。ひねりつぶしてやる。」マウントイエティーは翔太につかみかかってきた。翔太は飛び上がって離れた。

「変身!クロスファイヤー!トオッー。」ジャンプしてクロスファイヤーに変身した。

「貴様はクロスファイヤー!いい所で会った。俺が倒してやる!」マウントイエティーはつかみかかってきた。クロスファイヤーはパンチで攻撃したが効果はなかった。怪人の体が固い筋肉で覆われているためだった。マウントイエティークロスファイヤーの両腕をつかむと振り回して投げ飛ばした。

「ドーン。」大きな音がしてクロスファイヤーは地面にたたきつけられた。

クロスファイヤー!」蓮が驚いて叫んだ。クロスファイヤーはダメージを受けてなかなか立ち上がれないようだった。

「フッフッフ。お前は俺には勝てない。死ね!」マウントイエティークロスファイヤーに近づいていった。そして首をつかむと締め上げた。

「ううっ。」クロスファイヤーは苦しんでいた。マウントイエティーのパワーで首がへし折られそうになりながらも、クロスファイヤーは全身を炎で包んだ。あまりの高温にマウントイエティークロスファイヤーを放り出しように投げた。また地面にたたきつけられたクロスファイヤーは深いダメージを受けつつも、首を押さえて何とか立ち上がろうともがいていた。マウントイエティーがさらに攻撃を加えようと近づいてきた。非常に危機的な状況だった。クロスファイヤーはなんとか立ち上がり、

「ファイヤーバースト!」右手を突き出して火炎を浴びせた。マウントイエティーは少しひるんだが、それでもクロスファイヤーの方に一歩一歩、近づいてきていた。クロスファイヤーは下がったが、やがて崖の近くまで追い詰められた。

「それで最後だ。」マウントイエティークロスファイヤーにつかみかかろうとした。クロスファイヤーは崖っぷちで飛び上がり、空中で一回転した。そして体をひねってスピンをかけて、必殺技を出した。

クロスファイヤーキック!」マウントイエティーは腹にキックを受けたが、何とかこらえた。しかし衝撃でがけが崩れて下に落ちていった。

「危なかった。」クロスファイヤーはつぶやいた。しかしマウントイエティーを倒せてはいなかった。

 

ダメージを受けた翔太を蓮は肩をかして歩いていた。山はもう日が暮れそうになっていた。

「ここで野宿するしかないか。」蓮が言った。

「あ、そういえば、この付近にお寺があるらしいわ。もう誰も住んでいないけど。そこへ行ってみましょう。」真由が言った。

3人が荒れ果てた寺にようやく着いた。もう日が落ちていて暗くなっていた。3人は恐る恐る寺の中に入って行った。すると戸が急に開いた。3人はビクっと驚いてその方向を見た。

「誰かね?君たちは。」和尚が立っていた。厳しい顔をして3人をじっと見ていた。

「や、山登りに来たのです。だけどもう日が暮れてしまって困っているんです。ここに止めてください。」真由が言った。

「こんな山奥に?」和尚はいぶかしがりながらも、

「いいだろう。そちらの離れを使いなさい。山寺のことで何もないが・・・」そう言うと、戸をぴしゃりと閉めた。3人は顔を見合わせた。

 

荒れ果てた山小屋のような離れで3人は地図を見ていた。

「明日は頂上に行ってみよう。やはりショッカーネクストはいた。奴らの基地がここにあるに違いない。」蓮が言った。

「ああ、そうだ。だがあの怪人は厄介だ。技が通用しない。」翔太が言った。

「確かに強敵だ。あの怪人は林にいたから、そこを迂回して行こう。」

「そうね。怪人もダメージを負っているはずだから、来ないかもしれないし。」真由が言った。その時、急に、

「しっ!」翔太が口に指を当てた。そしてゆっくりと戸を開けて外を見た。和尚が辺りを見渡して寺を出て行くのが見えた。

「あの和尚さん、怪しくない?」真由が言った。

「ああ、こんな夜中にどこに行くのだろう。」蓮が言った。

「それにここは人が住んでいなかったはずよ。」真由が言った。

「じゃあ、最近、ここに来た?」翔太が言った。

「するとショッカーネクストの一味か?」蓮が言った。

「十分考えられる。和尚には見つからないように、明日早く出発しよう。」翔太が言った。

 

次の日、朝早く3人は音を立てないように注意しながら寺を出た。そして迂回路を通って山頂を目指した。

しかしその様子は監視カメラでとらえられていた。山頂の基地でマウントイエティーはモニターを見ながら不気味に笑っていた。

「こんどこそ、捕まえてやる。クロスファイヤーなどひねりつぶしてやる。フッフッフ。」

 

山頂付近では戦闘員が警備している姿が見えた。もう入り口は近いようだった。

「真由はここで待っていてくれ。2人で行ってくる。」翔太が言った。

「え、いやよ。私も行く。」真由が言った。

「もしもの時は山を下りて助けを呼んでくれ。いいな。」蓮が強く言った。それを聞いて真由はうなずくしかなかった。

翔太と蓮が見つからないように山頂に向かって行った。真由はそれを岩影から見守っていた。

「なんか変だわ。」真由は違和感を覚えていた。周囲を見渡すと2人を監視カメラが追いかけているようだった。

(いけない。罠だわ。)真由は飛び出して2人に教えようとした。しかしその前に戦闘員が立ちはだかっていた。真由は、

「罠よ!逃げて!」そう叫んだ。しかし2人の耳には届いていないようだった。戦闘員は真由に近づいてきた。真由は2人が心配だったが、後ろを向いて逃げていった。戦闘員が追いかけてきていたが、真由は岩陰に隠れてなんとかやり過ごした。

(罠だったわ。2人をなんとか助けないと。)真由は隠れていたところを出て道を歩き始めた。すると前方には戦闘員が待ち構えていた。

「い、いけない。」真由は後ろに逃げようとしたが、後ろにはあの和尚が立っていた。前方の戦闘員はゆっくり真由の方に近づいてきた。後ろの和尚は走って真由の方に近づいてきた。

(もう、だめ。)真由が目をつぶって頭を抱えて固くなった。

走ってきた和尚が真由に近づいて彼女を捕まえるかと思いきや、真由を通り過ぎて戦闘員の方に向かって行った。そして戦闘員につかみかかっていった。

ゆっくり目を開けた真由は目の前の光景に驚いた。和尚は群がる戦闘員たちを次々に倒していた。彼はショッカーネクストではなかった。真由は叫んだ。

「和尚さん!あなたは誰なの?」

和尚は右手でつかんだ戦闘員を投げ飛ばしながら言った。

「ショッカーネクストの敵、そして人類の味方。」

そしてまた向かってきた戦闘員を投げ飛ばした。

「私は一文字隼人。日本を守る仮面ライダー!」和尚が叫んだ。

「あなたも改造人間なの?」真由が訊いた。

和尚は僧衣を脱いだ。そしてジーンズ姿の男になった。

「お見せしよう!」和尚は戦闘員が飛び掛かろうとするなかで、

「変身!トウッー。」ジャンプすると変身ベルトが回り、仮面ライダー2号が現れた。その赤い腕と足が力強く動き、すべての戦闘員たちを強力なパンチとキックで倒した。

「いっしょにいた青年はどうした?」仮面ライダーは訊いた。

「山頂に行ったわ。そこにショッカーネクストの基地がある。」真由が言った。

「無謀なことを!トウッー。」仮面ライダーは飛び上がった。そしてサイクロンにまたがった。それで山頂に向かって行った。

 

翔太と蓮は山頂に向かった。厳戒な警備だったはずだが、戦闘員に見つからず基地の入り口から入ることができた。基地の中も戦闘員が歩いていたが、何とかやり過ごして中央の部屋に入ることができた。

「ここが本部か?」蓮が辺りを見渡しながら言った。機器は多く並んでいたが、誰もいなかった。

「おかしい。何か変だ。」翔太が言った。その時、急に上から檻が降りてきた。

「あ、危ない。」翔太が叫んで逃げようとしたが、すでに遅かった。檻は翔太を捕まえていた。蓮も一緒に檻につかまってしまった。翔太は檻を破ろうとしたがびくともしなかった。

「こうなったら・・・。」翔太は変身ポーズをとった。すると檻から高圧電流が流れ、翔太を感電させた。

「ううっ。」翔太は片膝を折って、苦しがった。高圧電流はすぐに止まった。しかし翔太のダメージは軽くなかった。

「大丈夫か?」蓮が駆け寄って声をかけた。

「ふっふっふ。罠にはまったな。」ドアが開き、戦闘員とともにマウントイエティーが入ってきた。

「それでは変身できまい。じっくりなぶり殺してやる。」マウントイエティーが戦闘員に合図を送った。また檻に高圧電流が流れ、翔太は苦しみだした。 

「死ね!クロスファイヤー!」マウントイエティーが叫んだ。その時、いきなり

「待て!」という声が叫び渡った。

「誰だ」!」マウントイエティーが叫んだ。

「俺だ!」と言って仮面ライダーが飛び込んできた。戦闘員を次々に倒して、翔太と蓮の檻に近づくと、檻を破壊して助け出した。

「お、お前は!」マウントイエティーが驚いて叫んだ。

「俺は仮面ライダー2号。いくぞ、ショッカーネクストの怪人め!」

「何を!叩き潰してくれる!」マウントイエティー仮面ライダーに殴りかかった。仮面ライダーは受け止めて反撃したが、マウントイエティーはびくともしなかった。ならばと、仮面ライダーはマウントイエティーをつかむと、ジャンプして天井を突き破って外へ出た。

翔太は、

「変身!クロスファイヤー!」同じくジャンプして変身すると外に出て行った。

仮面ライダーはマウントイエティーと戦っていたが、その強靭な体に手を焼いていた。しかしクロスファイヤーが現れ、攻撃に加わった。

「ファイヤーパンチ!」「ファイヤーキック!」炎の力でパワーを増した攻撃に、さすがのマウントイエティーのダメージを負っていた。そこへ仮面ライダーがジャンプして、

「ライダーキック!」を放った。さらなるダメージでマウントイエティーは片膝をついた。

そこへ間髪を入れず、クロスファイヤーはジャンプをすると一回転して、

クロスファイヤーキック!」でとどめを刺した。マウントイエティーは倒れこむと、大爆発を起こした。

 

ショッカーネクストの基地を破壊して、和尚と翔太、蓮、真由が顔を合わせた。

「あなたが仮面ライダー2号でしたか。」蓮が訊いた。

「そうだ。仮面ライダー2号、一文字隼人だ。ショッカーネクストを追っていて、和尚に化けて山に潜り込んで探っていた。君たちが来るとはな。おかげで強敵のマウントイエティーを倒すことができた。」

「いえ、僕たちの方こそ、危ないところを助けてただ来ました。獏たちは・・・」翔太が言おうとするの隼人は遮った。

「君たちのことは聞いている。猛から。」

「マスターを知っているのですか?今どこにいるのですか?」真由が尋ねた。

「彼もまた、ショッカーネクストを追っている。みんなで力を合わせて、ショッカーネクストの野望をくじくのだ。」そう言うと隼人は右手を出した。翔太と蓮と真由も右手を出して握った。

 

クロスファイヤー仮面ライダー2号の活躍で強敵のマウントイエティーを倒し、ショッカーネクストの基地を破壊した。しかしショッカーネクストの野望は果てしなく続いていく。だから彼らはまた戦いを続けていくだろう。