仮面ライダークロスファイヤー

昭和ライダーの熱き戦い

第3話 デビルスコーピオンの恐怖の針

1台のバイクが山道を走っていた。その横を黒ずくめの男のバイクが追い抜かしていった。

「俺と勝負するつもりか!」バイクに乗って青年はつぶやくと、その黒ずくめの男のバイクを追っていった。その黒ずくめの男はニヤリと笑うと、さらにスピードを上げていった。その男は青年を挑発しているように見えた。青年も負けじとスピードを上げていった。

「負けるもんか!」

お互いに山道でデッドヒートを繰り広げたが、ついに青年のバイクは追い抜いて引き離し

「へへ、やったぜ!」青年は得意そうにつぶやいたが、急にあわててブレーキをかけた。急に前の道に網が張られていた。

「うわー!」青年は叫び声を上げた。彼は網にとらわれて気を失った。

 

喫茶アミーゴは今日も客はまばらだった。真由はため息をついて、

「今日も暇ね。」と言った。翔太はカップをふきながらうなずいた。彼はあれ以来、ここに居候をしていたので、店を手伝うようになった。

「来たよ!真由ちゃん。」扉を開けて常連のシゲさんが大きな荷物を持って入ってきた。

「どうしたのですか?」翔太が尋ねた。

「マスターの部屋が開いたから、そこに下宿してもらおうと思って。」真由が言った。

「マスターからも言われていてね。自分は不意に旅に出ることがあるから、いないときは借りて使ってくれと。」シゲさんは言った。

「助かります。」真由が言った。

「いや、ここにいたら毎日、マスター直伝の真由ちゃんのコーヒーがいつでも飲めるからね。こっちも助かるよ。」シゲさんが言った。

その時、34人の若者がアミーゴに飛び込むように入ってきた。

「大変だ!翔太!」

「どうしたんだ。あわてて。」翔太が答えた。

「達也が、達也がいなくなった。」若者の一人が言った。

「何だって!達也が!」

「ああ、バイクで山道のツーリングに出かけた。でも帰ってこないんだ。バイク仲間で方々探したが見つからない。ただ達也のバイクのものと思われる部品が山道に落ちていた。」

「そうなんだ。もしかして今はやりの誘拐、誰かに拉致されたのかもしれない。」

翔太はそれを聞いて目を見開いた。そして居ても立っても居られないようにあわててエプロンをとると、

「僕も探しに行く。」と言って行こうとした。

「ちょっと、翔太、どこに行くの!危ないわ!」真由が止めた。

「でも達也は親友なんだ。もしかのことがあったら・・・」翔太が言った。

「いや、翔太君、やめた方がいい。真由ちゃんの言う通り、危険すぎる。」シゲさんも言った。

「でも僕が行くしかないんです!」翔太はそう言うと、アミーゴと飛び出して行った。

 

翔太はバイクに乗って山道に来ていた。バイクの腕試しに、この曲がりくねった道のカーブを攻めるのには最適のようだった。

ふいに翔太の乗るバイクの後ろに、黒ずくめの男のバイクが現れた。その男は翔太を負い抜かして挑発していた。

(このバイク、もしかしたら達也の失踪に関係しているかもしれない。)翔太はそう思って男のバイクを追っていった。すると男のバイクはさらにスピードを上げて行った。やがて大きなカーブがあり、それを抜けるとバイクもその男も消えていた。

翔太はバイクを止めて、辺りを見渡した。すると探していた達也が現れた。

「達也!無事だったんだな。大丈夫だな!」翔太が言った。

「ああ、元気だ。前より強くなった。」達也は微笑みながら答えた。何か意味ありげな言い方に翔太は違和感を覚えた。

「お前、何かされたんじゃないだろうな?」翔太が訊いた。

「ふふ。俺は生まれ変わった。よく見ろ!」達也は一回りした。すると怪人の姿になった。

「お、お前、ショッカーネクストに改造されてしまったのか!」翔太は驚きながらも言った。

「ああ、そうだ。俺はデビルスコーイオン。ショッカーネクストの一員だ。」

「何を言っているんだ。奴らは世界征服を企む悪の秘密結社だ!」

「ふふ。お前は青いな。ショッカーネクストは世界を規律ある社会に変えようとしているだけだ。そのためには俺たちのような改造人間が必要だ。お前も改造されたのだろう。俺と一緒にショッカーネクストのために働かないか?」怪人はやさしい声で翔太に言った。

「断る!ショッカーネクストは人々の自由を脅かし、平和を壊す集団だ。断じて許すことはできない。」

「そうか。どうしてもだめか?」怪人は訊いた。

「ああ、駄目だ。お前こそやめるんだ。」翔太は言った。

「それならお前を抹殺する。ショッカーネクストの敵としてな。」

「やめろ、達也!」翔太は右手を出して制したが、デビルスコーピオンはパンチを放ってきた。翔太は避けたり、手で受けたりしていたが、数発のパンチを体にあたって後ろによろけた。そこにさらにデビルスコーピオンが攻撃をかけようとしていた。

翔太は飛び上がって背後の斜面に立った。

「「変身!クロスファイヤー!」

翔太は飛び上がって変身した。地上に降りたところをデビルスコーピオンが攻撃をかけてきた。しかしクロスファイヤーはパンチとキックで反撃した。

「うぬぬ。」押され気味のデビルスコーピオンは右手に大きな針を出した。それをクロスファイヤーに向けて突いていった。それをクロスファイヤーが避けて、その針は壁を突きさした。すると壁は爆発とともに大きな穴が開いた。クロスファイヤーは驚きながらもファイティングポーズの構えをとった。

「死ね!」デビルスコーピオンがさらに針を突いていった。クロスファイヤーはまた避けると、今度はパンチをデビルスコーピオンに放った。あまりの衝撃にデビルスコーピオンは後ろに下がり、そこにさらにクロスファイヤーはパンチを入れていった。ダメージを負ったデビルスコーピオンにさらにクロスファイヤーは攻撃をかけようとした。すると、

「翔太、やめてくれ。親友だろ。」デビルスコーピオンが右手を上げてクロスファイヤーに言った。翔太は一瞬、攻撃ができなくなった。

その隙にデビルスコーピオンは右手の針を突きだした。それはクロスファイヤーの胸に当たって爆発を起こした。クロスファイヤーは胸を押さえて片膝をついた。クロスファイヤーの攻撃が止まっている間に、ダメージを受けていたデビルスコーピオンは煙にように姿を消した。

「翔太。勝負はお預けだ。しかし次回は必ず、お前を倒す!またここに来い!」達也の声が聞こえてきていた。

 

翔太は何とか山を下りた。そこにはシゲさんと真由が待ち構えていた。フラフラしている翔太をシゲさんが受け止めた。

「翔太、大丈夫?しっかりして!」

「翔太君、しっかりするんだ。ここに座りたまえ。」シゲさんは翔太を座らせた。負傷して憔悴している翔太に、

「一体何があったんだ?」シゲさんが訊いた。

「達也が、達也が怪人に・・・」翔太が言った。

「何!」シゲさんは驚いていた。真由は悲しそうな顔をしていた。

「達也はショッカーネクストの仲間になってしまった。そして仲間にならない僕に襲いかかってきた。僕は戦った。でも親友の達也を倒すことはできない・・・。」翔太は弱々しく言った。

「しっかりするんだ。彼はもうショッカーネクストの一員なんだ。我々の敵になってしまったんだ。もう親友じゃないんだ。」シゲさんが言った。

「でも・・・。」

「君は仮面ライダーになったんだ。人類の自由と平和を守る。ネクストショッカーの野望をくじかねばならない。それが君の使命のはずだ。」シゲさんが言った。

「シゲさん、どうしてそのことを・・・」真由はすべてを知っているシゲさんが不思議に思って尋ねた。

「マスターからすべて聞いた。おやっさん、いや真由ちゃんのおじいさんも同じことを言うはずだ。」シゲさんはさらに言った。

仮面ライダーはマスターだけではない。多くの者が仮面ライダーとなり悪の組織と戦った。それは想像を絶する苦しみが待っている。だが彼らは人類のために戦った。自分の身がどうなろうと。また時には大事なものを失うことさえあった。翔太、君は決断できるか。親友だった男でも倒すことができるか?」シゲさんは翔太をまっすぐに見て言った。翔太はシゲさんの言葉を聞いて、やっと決意することができた。

「シゲさん。僕はやります。それが僕の役目です。」翔太は答えた。

 

数日後、傷の癒えた翔太はまたあの山道に行った。頂上付近でバイクを降りた。そこに達也が現れた。

「よく来た。」達也が不敵な微笑みを浮かべながら言った。

「ショッカーネクストから抜ける気はないのか?」翔太が言った。

「くどいな。おまえこそショッカーネクストの仲間にならないか?」達也が訊いた。翔太はゆっくり首を横に振った。

「そうだろう。俺は昔からお前を超えられなかった。親友だったお前を妬んでいた。しかし今を違う。お前を倒して俺が上であることを証明してやる!」達也は一回転すると、デビルスコーピオンになった。翔太も

「変身!クロスファイヤー!」と変身した。

ビルスコーピオンは右手の針を出して突いてきた。クロスファイヤーはそれを右、左と避けていた。

「逃げるだけでは勝てないぞ!」デビルスコーピオンはさらに針の攻撃を続けてきた。クロスファイヤーは隙を見てパンチを放った。それはデビルスコーピオンの胸に当たって態勢を崩させた。さらに炎のパンチをデビルスコーピオンに叩き込んだ。デビルスコーピオンは大きなダメージを受けて地面に両手をついた。

さらに攻撃を続けようとしたクロスファイヤーに、

「翔太、親友の俺を殺す気か!」と叫んだ。クロスファイヤーはまたしても攻撃の手を止めてしまった。

「今だ!」デビルスコーピオンは右手の針を突きだした。それはクロスファイヤーの胸に突き刺さった。爆発とともにクロスファイヤーは後ろに倒れこんだ。

「ふっふ。相変わらず甘い奴よ。俺が止めを刺してやる!」デビルスコーピオンは立ち上がり、右手の針を振り上げた。そしてクロスファイヤーの顔めがけて針を突いた。あわやという時、何とかそれを両手で受け止めた。しかしデビルスコーピオンはさらに力を入れて、針はクロスファイヤーの顔の前に迫っていた。

「ううむ。」

クロスファイヤーはなんとかこらえて、足でデビルスコーピオンをはねのけた。そして起き上がると、

「ファイヤーパンチ。」を連発した。デビルスコーピオンは後ろによろめいた。クロスファイヤーはジャンプして一回転して、

クロスファイヤーキック!」を放った。激烈なキックを受けてデビルスコーピオンははね飛ばされた。地面に倒れて転がったが、なんとか立ち上がった。

「翔太、俺の負けだ。やはりお前にはかなわなかった。何もかも・・・。」そう言うと再び地面に倒れた。そして大爆発した。

振り返ったクロスファイヤーはその炎に照らされて、悲しそうに立っていた。

 

クロスファイヤーの活躍でデビルスコーピオンは倒された。しかし親友を失った翔太の気持ちは深く沈んでいた。仮面ライダーとしての使命を果たした彼には、あまりにも大きな代償だった。翔太は罪のない若者を改造人間にするショッカーネクストへの怒りをさらに強くした。