仮面ライダークロスファイヤー

昭和ライダーの熱き戦い

第2話  ダークスパイダーの反撃の糸

2台のバイクが喫茶アミーゴにたどり着いた。バイクを降りた翔太は少しめまいがしてよろめいた。それを猛が受け止めた。

「大丈夫か?しっかりしろ。」

「ええ、めまいがしただけです。」翔太は荒い息をしていた。

猛は翔太の肩をかかえて中に入って行った。そしてソファに座らせた。真由が驚いて近づいてきた。

「2人とも、どうしたの?」

「真由ちゃん、水!」猛が言った。真由が慌ててコップに水を汲んできた。

「翔太、見つかったのね。どこにいたの?」真由が訊いた。

「すまない。真由ちゃん。ちょっとめまいの薬を買ってきてくれないか?翔太はめまいがしているようだ。」猛が言った。真由はコップを置くと慌ててアミーゴから出て行った。それを目で追いながら、

「多分、慣れない体で激しく動いたためだろう。しばらくするとよくなる。」猛は翔太に言った。翔太はうなずいた。少し息が落ち着いてきているようだった。

「さあ、水でも飲め。」猛はコップを差し出した。翔太がコップを握った途端、コップはバリンと粉々に割れた。猛は一瞬、驚いて目を見開いた。

「す、すいません。コップ、割っちゃって。」翔太は慌てて立ち上がった。後始末をしようと水道のそばに行った。

「いや、いいんだ。俺がやるから。」猛がやっと我に返って立ち上がった。翔太はぞうきんを水に濡らそうとして蛇口をひねった。すると蛇口はぐにゃりと曲がってしまった。翔太は驚いて両手を見た。それはいつもと変りない達也の手だった。しかしそのパワーは水道の蛇口をひん曲げるほど強力になっていた。改造人間にされて、もはや普通の人間に戻れなくなったことを翔太は思い出した。その悲しみが翔太に重くのしかかった。

「僕は、僕はどうなってしまったのですか?化け物になってしまった・・・。」翔太は両手をわなわなとふるわせて泣いていた。

猛はその震える手をしっかりと握りしめて言った。

「大丈夫だ。力の調節ができていないだけだ。訓練すれば普通にできる。君はちゃんと普通に暮らせる。心配するな。」猛は翔太の肩をやさしく手を置いた。翔太は泣き止まなかった。猛自身も深い悲しみに襲われ、目から涙がこぼれた。

「大丈夫だ。きっと何とかなる・・・。」猛は達也に自分と同じ苦しみを与えたショッカーネクストに大きな怒りを覚えていた。

 

真由が帰ってきた。

「翔太は?」

「部屋で休んでもらっている。」猛が答えた。

「マスター。一体、翔太はどうしたの?様子が変だし。」

「いや、翔太をつけ狙う奴らがいる。かなり危険だ。だからしばらくここで預かろうと思う。」猛が言った。

「そうね。ここだと人も多いし。ただ・・・」真由は言葉を濁した。

「どうした?」

「何か誰かに見られているようだった。そんな気がする。」

猛は慌てて外に出て辺りを見渡した。しかし外は何の異常もないように思えた。

「気のせいか?」猛はつぶやいて中に入った。その様子を遠くから見ている人影があった。

 

夜になり、それぞれが眠りに入った。翔太はしばらく眠れなかったが、何とか眠ろうと寝返りを打っていた。その窓に急に怪人の影が浮かび上がった。

翔太は驚いて飛び起きた。しかし窓には何も見えなかった。慌てて窓を開けて外を確認したが、人影はなかった。

「夢か・・・」翔太は安心して窓を閉めた。部屋の方に向き直ると、そこには怪人ダークスパイダーが立っていた。

「うわあ!」翔太は悲鳴を上げた。ダークスパイダーは達也に近づくと、両手で首を絞めた。締め上げられて達也は声が出せない状態だった。

「待て!」猛が駆けつけてきた。ダークスパイダーに飛び掛かると、すぐに翔太を放した。今度は猛に首を絞めようとした。猛はそこから脱出して、仮面ライダーに変身した。

ダークスパイダーにパンチで攻撃をかけていくと、ダークスパイダーは窓から外に逃げていった。

「きゃあ!助けてー!」遠くで真由の悲鳴が聞こえた。仮面ライダーは真由の部屋に駆け付けたが、そこには誰もいなかった。真由は戦闘員に担がれて連れ去られてしまったようだった。外に出て辺りを見渡しても真由の姿はもはやなかった。

「しまった。」仮面ライダーは思わず声が出た。

仮面ライダー、娘は預かった。返して欲しければ、またあの山に来い。それも2人で来い。そこでファイヤーホッパーと交換だ。」ガザン将軍の声が聞こえてきた。

仮面ライダーはぐっと拳を握っていた。翔太はそれをじっと見ていた。

 

猛と翔太はバイクでまたショッカーネクストの基地のある山に来た。バイクを降りると、猛が声をかけた。

「体はもう大丈夫か?」

「はい。真由が僕のためにつかまった。何とか助けたい。」翔太は答えた。

「これは罠だ。敵は何をしてくるかわからない。しかし俺は君たち2人を必ず守る。」猛はきっぱりと言った。

しばらく歩くと、縄で縛られた真由がダークスパイダーと多くの戦闘員に囲まれて立っていた。

「今、助けるぞ!」猛が叫んだ。

「真由を返せ!」翔太も叫んだ。さらに前に進もうとすると、ガザン将軍が立ちはだかった。

「交換だ。ファイヤーホッパーはこっちに歩いて来い。こっちに来たら娘は放す。」

「いや、同時に放せ!」猛が言った。

「いいだろう。行くぞ!」真由が縛られたまま歩き出した。翔太も前に進んだ。お互いにすれ違って歩いていき、真由は猛に抱えられた。翔太は戦闘員に両腕をつかまれていた。

猛は真由の縄を解いてやった。

「翔太は?翔太はどうなるの?」真由が言った。

「心配はいらない。必ず取り返す。」猛が言った。

「ふっふっふ。ここから逃げられると思っているのか?やれ!」ガザン将軍が命令した。戦闘員が2人を取り囲んだ。ダークスパイダーが少しずつ近寄ってきた。

「俺のそばを離れるな。」猛はそう言うと、戦闘員に向かって行った。次々に戦闘員を倒していったが、ダークスパイダーが前に立ちはだかった。真由を後ろに隠すと、

「行くぞ!ライダー変身!」猛はジャンプして仮面ライダーに変身した。ダークスパイダーは酸の糸を吐いて攻撃してきた。仮面ライダーはそれをなんとか避けていた。

その間に真由を捕まえようと戦闘員が近づいていった。真由は必死に逃げていた。

「真由、危ない!」翔太は叫んで暴れた。両脇の戦闘員はそれを押さえたが、翔太の力にはね飛ばされてしまった。翔太は急いで真由のそばに駆け寄った。群がる戦闘員を次々にはねのけていった。

「かまわん。やれ!」ガザン将軍が言った。戦闘員たちは翔太に殴りかかってきた。翔太はパンチを受けて倒れそうになるのを必死にこらえた。すると体から熱いものがこみ上げてきた。体が焼けるように熱くなり、炎に包まれているような気さえした。

(あの時と一緒だ。)翔太はショッカーネクストの基地から単身逃げるとき、同じような感覚になったことを思い出した。すると体が自然に動き始めた。

「変身!クロスファイヤー!!」両腕を回して掛け声をかけると、変身ベルトが現れた。

トオッー」ジャンプすると体が炎に包まれて、深紅の仮面ライダークロスファイヤーが出現した。

クロスファイヤーは周囲の戦闘員たちを次々に倒していった。そしてピンチの仮面ライダーのもとに駆け付けた。酸の糸を吐いていたダークスパイダーにパンチやキックで攻撃した。それは炎の力で何倍にも増幅され、怪人は深いダメージを負った。

「おのれ!」ガザン将軍がステッキでクロスファイヤーを攻撃しようと近づいた。そこに仮面ライダーが立ちはだかった。

「俺が相手だ!」

「何を小癪な!」

仮面ライダーとガザン将軍が戦いを始めた。振り回すステッキを避けつつ、パンチを繰り出した。ガザン将軍はそれを受け止めて、さらに仮面ライダーに攻撃をかけていた。

クロスファイヤーはなおもダークスパイダーにパンチを繰り出していた。不利になったダークスパイダーは酸の糸を吐いた。クロスファイヤーは何とか避けたが、次々と繰り出す糸の連続攻撃に何本かが体に命中して煙が出た。

「ううっ。」と唸り声を出して片膝をついた。そのダメージは浅くなかった。

ダークスパイダーは近づくと、クロスファイヤーの首を両手で絞め上げ始めた。何とかそれを外そうとするが、ダークスパイダーの強い力のためになかなかうまくいかなかった。

(な、何とかしないと。)クロスファイヤーは焦っていた。その時、また体に炎が包まれるような感覚に襲われた。すると体は燃えるように熱くなり、ダークスパイダーの両手を焼いていった。

「ううっ。」ダークスパイダーは両手を放した。そこでパンチを腹に叩き込んだ。ダークスパイダーはよろけて後ろに下がった。それでもまた酸の糸を吐いた。クロスファイヤーはそれを避けてジャンプした。

空中で1回転をして体をひねっていった。すると早い回転が体にかかり、やがて炎に包まれた。

クロスファイヤーキック!」掛け声とともに、その炎のスピンはダークスパイダーに向かっていった。ダークスパイダーは逃げることもできず、キックを受け炎に包まれた。そしてクロスファイヤーは地面に着地した。

「うううっ。」炎に包まれたダークスパイダーはうめき声を出して倒れると、大爆発を起こした。

「やったわ!」戦いを心配そうに見ていた真由は喜んで叫んだ。

「おのれ!」ガザン将軍はダークスパイダーが倒されたのを見て叫んだ。そして仮面ライダーから距離をとると、右手を下に向けた。すると爆発がして煙が辺りを包み込んだ。

「待て!ガザン将軍!」仮面ライダーは叫んだが、煙が晴れた時にはもうガザン将軍の姿はなかった。

「どこへ行った!」辺りを見渡したが、もうどこにもいなかった。

「お前たち、ここから生きて帰れるとは思うな。3人ともここを墓場にしてやる。この基地を自爆する。そうすればお前たちも吹っ飛ぶだろう。死ね!」ガザン将軍の声が響き渡った。

「いかん。脱出するぞ。」仮面ライダーが叫んだ。クロスファイヤーは真由をレッドストームに乗せると発進した。その後を仮面ライダーの新サイクロンが走って行った。

山は大爆発が起こった。辺りは巨大な炎で包まれた。その中を2台のバイクが疾走していった。

「しっかりしろ。もう少しだ。」爆発する道を駆け抜け、仮面ライダーが前の2人を励ましていた。クロスファイヤーは強い衝撃で気が遠くなりながらも、バイクを走らせ続けた。

 

気が付くと、翔太はベッドに寝かされていた。あの大爆発の中を突っ切って何とかここまでたどり着いたが、ここで気を失ったらしかった。猛がベッドまで運んでくれたようだった。

「助かった。」翔太はつぶやいた。ベッドから起きて店の方に下りたが、猛の姿はなかった。

「マスター!」そう呼ぶが返事はなかった。やがて真由も起きてきた。

「マスターは?」真由も気を失ってベッドに寝かされていたようだった。

「いないんだ。どこに行ったのだろう。」翔太が答えた。ふと、カウンターを見ると手紙が置かれていた。達也はそれを手に取った。

「翔太、真由へ。今回は2人とも大変、怖い目にあったと思う。世界征服を目指すショッカーネクストは恐ろしい集団だ。今後も君たちに危害を加えてくるだろう。しかしこれは2人だけのことではない。日本中、いや世界中の多くの人が危害を加えられ、恐ろしい目にあっているだろう。また改造人間にされて自由を奪われている人も少なくないだろう。私は仮面ライダーだ。人類の自由と平和のために戦わねばならない。だから私はショッカーネクストと戦う決意をした。各地に出没する奴らの野望をくじき、人々を守らなければならない。

私は行く。だが私がいなくなっても君たちが力を合わせれば、奴らの脅威を跳ね返すことができる。そう信じている。マスターより。」

「マスター、行ってしまったのね。」真由が言った。

「ああ、でもマスターは僕たちに後を頼んだのさ。ショッカーネクストとの戦い、そしてこの喫茶アミーゴも。」翔太は言った。

「そうね。」真由はうなずいた。2人は猛が行ったであろう、遠くの空を見つめていた。

クロスファイヤー仮面ライダーの活躍でダークスパイダーを倒し、ショッカーネクストの基地は自爆して消えた。しかしショッカーネクストの野望ははてしなく続いていく。これからも壮絶な戦いが待っているのに違いない。